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2017 11月 26一覧

産業スパイについて2

こんにちは。
豊田シティ法律事務所の弁護士米田聖志です。

産業スパイの続きについて、書きます。

鉄鋼の世界でも産業スパイ事件がありました。
これは、2008年10月のことですが、実は1990年前後から新日鉄で、一部技術者の退職時に《重要技術情報の不正持ち出し》が行われ、韓国鉄鋼メーカー「ポスコ」に、その技術情報〔法律用語としては<営業秘密>〕が流されていた、という事件です。
2008年10月に偶然、韓国の大邱高等法院において、別の事件がきっかけで発覚しました。

別の事件とは、ポスコの元従業員だった被告人イ・ソクジュが電磁鋼板に関するポスコの〔営業秘密〕を中国の鉄鋼メーカーに50億ウォン(約5億円)で売り渡したとして、「懲役3年(執行猶予5年)」の有罪判決を受けたのですが、審議中に 「ポスコが私に盗まれたと主張している<秘密情報>は、元々、ポスコが日本の新日鉄から新日鉄のOB技術者を介して盗み出したものだ」として、イ被告人が無罪を主張した事件です。

まったく呆れかえるような事件ですが、これが事実だったことは、新日鉄の綿密な内部調査で後々になって判明します。
ところで新日鉄とポスコは、長年、提携関係にありました。太平洋戦争後、韓国政府が『日韓基本条約』に基づく日本の経済協力資金で一貫製鉄所を作ることを決断し、八幡製鉄、富士製鉄(いずれも現在の新日鉄住金)、日本鋼管(現在のJFEエンジニアリング)の技術協力で生まれたのが「浦項総合製鉄」(1973年、第1期工事が完成)、つまり今の「ポスコ」です。
新日鉄社長を務めた故・稲山 嘉寛氏の尽力に、ポスコの実質的な創業者、故・朴泰悛(パク・テジュン)名誉会長も深い恩義を感じていたと言われています。

2000年には新日鉄の千速社長(当時)がポスコとの<相互出資>など戦略的提携を決断し、2006年にはインド資本から出発した、欧州のライバル鉄鋼会社アルセロール・ミタルによる敵対的買収の脅威に備えて<株の持ち合いを拡充>しています。
それでも、新日鉄が《秘密盗用》疑惑でポスコを訴えたのは、2010年前後を境に両社の関係が「協調」から「競争」に変わったからだと考えられます。

粗鋼生産でいえば、両社はともに年間3,000万トンを超えて互角。新日鉄からみれば、2000年以降のポスコの追い上げはすさまじく、ある種の疑念が膨らんでいたといいます。
その疑念が、イ・ソクジュのもたらした技術漏洩に関する情報提供や内部調査によって確信に変わり、2012年4月、新日鉄は韓国ポスコや新日鉄の元技術者を相手取収って『不正競争防止法』などに違反したとして東京地裁に提訴したのです。

新日鉄側の訴えによりますと、同社の方向性電磁鋼板に関する情報(=『不正競争防止法』が保護する「営業秘密」に該当)をポスコは新日鉄の元技術者らと共同して盗み出し、その情報に基づき、ポスコは新日鉄の方向性電磁鋼板と同等の品質の製品を製造・販売し、新日鉄に損害を与えたというものです。
なお、韓国の高裁で2008年10月に表沙汰になってから日本で「民事訴訟」を起こすまで3年半かかっています。そして「和解」したのが2015年9月末。つい、2年前のことです。

「和解」の内容としては、a.ポスコが新日鉄住金に300億円を支払い、b.相互の国内外での訴訟合戦を取り下げ、さらに c.ポスコが今後、方向性電磁鋼板の製造販売に関する「ライセンス料」を新日鉄住金に支払うこと、また d.ポスコ製同鋼板の販売地域を限定する、ことで同意した模様だと報道されています。

これは「民事事件」として“実質勝利”ですが、「刑事事件」としては事件の発生から時間が経ちすぎて立件できなかったという点に問題があります。日本企業が抱える「重要情報管理体制のあり方」という点でも、またわが国政府による「《産業スバイ》をめぐる法整備」と「国民や企業に対する技術の重要性と反《産業スパイ》啓発活動の展開」という2点から検討する必要があるでしょう。

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