最高裁判決(2016年3月1日)の内容について
こんにちは。
豊田シティ法律事務所の弁護士米田聖志です。
前回の続きです。
最高裁 第三小法廷(岡部 喜代子・裁判長)は、2016年3月1日、「介護する家族に賠償責任があるかは、生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだ」とする初めての判断を示しました。
そのうえで今回は、妻(93)と長男(65)は「監督義務者」にあたらず、<賠償責任>はないと結論づけ、JR東海の「敗訴」が確定しました。
今後、一層 高齢化が進む中で認知症患者をめぐる介護や賠償のあり方に大きな影響を与えると考えられます。
『民法』714条は、重い認知症の人のように責任能力がない人の<賠償責任>を「監督義務者」が負うと定めており、今回は家族が「監督義務者」に当たるのかどうかが争われたわけです。
JR東海は、男性と同居して介護を担っていた妻と、当時、横浜市に住みながら男性の介護に係わってきた長男に賠償を求めました。また、民法の別の規定は「夫婦には互いに協力する義務がある」と定めていますが、最高裁は「夫婦の<扶助の義務>は抽象的なものだ」として、妻の「監督義務」を否定。長男についても「監督義務者」に当たる法的根拠はないとしました。
一方で「監督義務者」に当たらなくても、日常生活での関わり方によっては、家族が「監督義務者に準じる立場」として責任を負う場合もあると指摘し、「生活状況や介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ」との基準を初めて示したのです。
今回のケースに当てはめると、妻は当時85歳で「要介護1」の認定を受けていたほか、長男は横浜市在住で20年近く同居していなかったことなどから「準じる立場」にも該当しない、としています。結論は、5人の裁判官の全員一致ですが、うち2人は「長男は<監督義務者に準じる立場>に当たるが、義務を怠らなかったため責任は免れる」との意見を述べています。
今回の最高裁判決は、認知症高齢者を含む精神障害者の事件・事故をめぐっては、c.成年後見人も、a.配偶者も、b.子供も一般的に「法定監督義務者」に当たらないとし、「監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情」がある場合に「監督義務者責任」を負うとしています。
その判断基準として、次の6つの基準を示しています
①本人の生活状況や心身の状況、
②親族関係の有無・濃淡、
③同居の有無など日常的な接触の程度、
④財産管理への関与の状況、
⑤本人の日常生活における問題行動の有無、
⑥問題行動に対応するための介護の実態。
このような最高裁判決について、どのような評価があるのか、次回ご紹介します。
- 2017-04-18