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ごあいさつ

最高裁判決が抱える問題点

こんにちは。
豊田シティ法律事務所の弁護士米田聖志です。

さて、前回の認知症加害事故の「損害賠償」に関する最高裁判例についてです。

このような最高裁判決に対して、医師でもある東北大学法学部・准教授 (専門は「民法」、特に「損害賠償法」)でもある米村滋人氏は、2016年10月号『中央公論』の対談で次のように語っています。

《今回の判決は、介護する家族が責任を負うのかどうかの判断基準が曖昧です。判断基準に従えば、近所に住んだり、同居したりして、日常的に介護している人ほど、「監督義務者」として「賠償責任」を負う可能性が高くなる。

つまり、健康な人が同居して認知症の親を介護している場合、監督を引き受けたと認定される余地が十分にある。

今回は、男性の妻は介護が必要な状態で、長男も遠くに住んでいたため、両者ともに監督を引き受けたと判断されなかっただけ。

私には介護者にやさしい判決だと思えない。》、《「介護の引き受け」と「監督の引き受け」との区別は微妙です。
ざっくりいえば献身的に介護をしている人ほど、監督も引き受けたとして責任を負うリスクが高まります。これでは介護を引き受けないほうが得することにもなりかねない。

家族間などで介護の押し付け合いが始まる懸念があります。また、判決では、病院も介護施設も責任を負うことになっていますから、病院や施設が今後、認知症のお年寄りを引き受けない、もしくは施設内に閉じ込めるという“歪んだ方向”に推し進めかねない判決だと懸念しています。
病院、施設、家族の微妙なバランスで成り立ってきた介護体制が一気に崩壊する危険もあるわけです。》

『中央公論』のもう一方の対談者、和田 行男氏(認知症患者も受け入れる民間福祉事業施設の運営管理者)も次のように語っています。
《僕は、可能な限り閉じ込めない、行動制限をしないで、認知症であろうが、身体に障害があろうが、誰もが地域社会を舞台に主体的な地域社会生活を送れることを目指してきたのです。

今回の最高裁判決で、認知症の人を熱心に介護している方には、重い監督責任がかかるとされたわけですから、(ア)認知症の人の家族が介護から遠ざかろうとするか、(イ)事故を起こさないように認知症の人を家や施設に閉じ込めようとする家族や施設が出てきてもおかしくない。かつて認知症の人をベッドに縛りつけたり拘束したりすることが大きな問題となり、ようやく認知症のお年寄りの人権・尊厳が守られるようになった矢先の最高裁の判断です。残念でなりません。》と。

今後、認知症の人による加害事故が増加するにつれ、世の中の趨勢に合わせるべく最高裁判決の「判断基準」が見直される可能性があるかもしれません。

しかし現在の「判断基準」がある限り、仮に介護事業所が認知症の人の家族との間で、施設側はできる限り入所者を拘束せず、彼らの尊厳を可能な限り守るという運営方針を貫く代わり、入所者に事故があっても施設側を責めないようにするという趣旨の契約書を結んでも、施設側の責任の有無はあまり変わらないと考えられるので、要注意です。

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